マイケルシェンカーのギターは「光」と「折り目」である:「Contraband」(Contraband)
このバンドというかプロジェクト、1991年に出されたもので、参加は、
リチャードブラック(Vo:Shark Island)
マイケルシェンカー(G:MSG)
トレイシーガンズ(G:L.A.Guns)
シェアベターセン(B:Vixen)
ボビーブロッツアー(D:Ratt)
という5人。当時は結構Shark IslandやVixenが注目されていて(でも不完全に消えちゃった)、そこにマイケルが入ってきたんでそこそこ話題になったと思います。その前後で何故かマイケルはRattとアンプラグドやってみたりしてたし。アルバムの出来としては、トレイシーガンズとマイケルのギターバトルも中々お互いの個性が出ていて良く、全体にはあまりプロジェクト臭さがない完成度の高いものだと思います。
で、ここではマイケルのギターにスポット当ててみますです。
マイケルって恐らくセッション系のプレイは苦手だと思っていて、以前ドイツで見たドイツ版G3でも、やはりセッションに向いてないなあ、って感じだったんですね....。
ところがこのアルバムでは、形態はセッションでも、恐らくマイケルは自分のパートを練りに練ったと思われ、素晴らしいプレイをしています。特に目立つのがハモリ。彼はあまりハモリを積極的にはしないギタリストだと思っているんですが、このアルバムではかなりハモリプレイが多い。しかもそれが
泣き泣き
の鳥肌モノ。想像ですが、他の連中はマイケルのスタジオ作業が終わるのをイライラして待っていたんじゃないか(爆)と思われるほどの完成度なんですね。で、泣き泣きなんていうと、どれほどバラードが多いんだ?という疑問も出ようと思いますが、実は殆どバラードといえるものはなく、全てがカバー(一曲だけリチャードブラックの曲)で、シンプルなロックンロールが多く、しかもメジャーキーばかり。なのにですねえ、やっぱり号泣のギターなんですよ。この辺は分かっていただける人は分かっていただけると思いますが、メジャーキーの泣き泣きって凄いですよ。UFOで言えば「Cherry」なんかがそう。
ここからは私のマイケル賛辞に変わります。
で、マイケルのギタープレイってなんでこんなに惹かれるのかな?と思っていて、少し分かった事があります。と言っても物凄く抽象的なことなんですが、
・彼のソロには「光を感じる」ような美しさがある
・リズム的に「折り目」を感じる端正さがある
ということ。うーん、難しいな。
ギターが入ってきた瞬間、パッとそこに光が切れ込むような異次元が出る感じというか、甘いだけではない、鋭さと堅さが入り混じったトーンで出てくるフレーズ。またまたUFOで申し訳ないですが、「Born to Lose」のソロ入りだったり、MSGの「Rock will never Die」のイントロだったり....。アコースティックの「Thank You」を聴いても、このナイフで暗闇を切り裂いて、しかも暖かさがあるフレーズが彼の強い個性だと感じます。
また、リズムの端正さはまた彼独特で、特にこのContraband前後の90年頃は彼のギターテクニックが最高の頃だというのとあいまって、リズムの「折り目」が素晴らしい。これって、正しく弾いているというだけではないタイミングの問題なんで、努力だけで解決できないところなんですが、ラフに聞こえるランフレーズでも、その塊が素晴らしいタイミングで切り込んでくるんですね。一つは異常に正確なピッキングというのが肝だと思いますが。
彼のギターって、確かに「泣き」という言葉が一番しっくり来るし、実はアル中でヘロヘロの頃のプレイが凄まじかったりするんですが、実は物凄くテクニック的に安定させる努力が凄かったりするんじゃないかな?その上で彼の個性が乗っかってくるんで、技術だけでもだめ、個性だけでもだめという唯一無二のものになっていると思います。よく「マイケル的な泣きのギター」と評されるもの(例えばArch Enemyのマイケル)を聴いて、全然自分としてマイケル的に聴こえないのが、実は「泣き」という部分の評価に偏っているからで、このリズムと音作りを考えると全然違ったりする(これはどちらが良いとかという話とは別ですが)。
この辺はもっと突っ込んで研究しないと分からない所が多いんですが、実はギター的にはアコースティックの「Thank You」を聴くと彼の技術的な高さ、凄まじさが体験できると思っています。
で、このアルバム、そのマイケルのいい所がかなり良く出ているものだと思っています。どうも今は廃盤のようですが、どこかで見つけたら入手しておいて損はないと思います。
それにしてもマイケル、良いよなあ。
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コメント
おぉ〜、なるほどぉ〜!神のギター分析にじっくりと読み入ってしまいました。リズムの折り目、って面白い表現で…、正に言い得て妙なんですけどね(笑)。昔UFOの「Rock Bottom」を最初に聴いた時に凄いギターだ、と思うと同時に、ドラマ展開のあるギターソロと終わったけど終わらない展開、そして感動を味わって、びっくりしたもん。Contrabandに限らずどのアルバム聴いても雑な仕事ってあんまりないですよね、この人。気合いの入れ方はそれぞれ違うけど(笑)。
投稿: フレ | 2009年10月31日 (土) 10時39分
フレさん、さすがに突っ込んでいただくと恐れ入ります。
そうなんですね、「正確なリズム」というのとはちと違うんですよ、彼の場合。「端正な」だけで済ませられるのとも少し違う。この言いにくさが正に彼の個性かと。
あと、気合の違いは感じますねえ、ちょっとした音の伸ばし方とかで分かってしまうのも、彼の個性の強さゆえかも知れません。
投稿: ドイツ特派員 | 2009年10月31日 (土) 15時26分
こんにちは〜。
相変わらず大人げないの聴いてますねえ。あっ、逆か。今の若い子たちは聴かないか。
そんなにマイケル・シェンカーを聴き込んでない私ですが、書いてること、分かります。「塊」感なんですよね。個々のピッキングやフレーズのタイム感ではなく、ソロの中でフレーズが塊で入ってくる感じっていうか。折り目って表現がぴったりです。
ところで、最近、売れないメタルバンドを扱ったドキュメンタリー映画が話題になってるそうです。「アンヴィル」ってバンドだったかな。大阪では12月に入らないと配給されないそうですが、中年のおっさんたち(特に現・元メタル好き)の涙腺をタコ殴りにする映画らしいですよ。
ネットでレビューを読んでしまったんですが、日本のメタルファンの耳は世界一らしいです。良いものはずっと忘れないで聴き続ける。まあ、日本だけじゃないんでしょうが。
投稿: しまうま | 2009年11月 1日 (日) 12時52分
しまうまさん、現メタル好きの中年のおっさんたちの一人です(笑)。
さすがに分かっていただけて感謝!です。そうなんですね、彼は点ではないソロ構成なんですよ。何というかなあ、フレーズが杓子定規なのとも違う言い難い個性ですね。
で、涙腺うるうるしてきたいですなあ。
投稿: ドイツ特派員 | 2009年11月 1日 (日) 16時33分