上手く行かなくても人生は愛おしい:「アンヴィル!夢を諦めきれない男たち」
ここにも少し書きましたがね、これは見たかったんですよ。で、コメント欄や知人からも「もう良いぞ!」と言われまして。六本木なんていう全く違う世界でこの映画を見たというわけです。
この映画(というかドキュメンタリー)、マイケルムーアが絶賛していたり、各方面の音楽関係者が取り上げたりで結構な話題。何しろ朝のテレビスポットでCM打ってるくらいだから、かなりなもんでしょう。で、見た感想は、
私は泣きました
私、人が死ぬので泣かせるのは結構卑怯だと思っていて、セカチューでも余命三ヶ月の花嫁でも全然泣けない(どちらも本ですが)。しまうまさんが「中年メタラーの涙腺タコ殴りらしいですよ」と情報をくれましたがその通り。
ストーリーは単純明快で、売れないバンドAnvilの固定メンバーであるロブとリップスが、それこそ派遣社員のような仕事をしながらバンドを続けている。「いつかはスター」と思いながらもずっと全然駄目で、ツアーに出れば出たでロクでもないことばかり。それでも何とか自分たちを納得させながらバンドが続く、そして最後に少しばかりのご褒美が待っている....、という内容。だ、駄目だ、書いているだけで涙腺が....。
はっきり言えば無茶苦茶に一途で不器用でドジでマヌケな、一昔前なら「笑いとペーソス」とでも表現される連中。でもね、誠実で良い奴で少数ながらファンもいて、家族も呆れながらも彼らを支えようとしているんですね。リップスなんて兄弟でもどうしようもない立場だし、ロブだってまあ似たようなもんでしょう(「俺にはリップスと違って家族の応援があった」と言ってたけど)。何だろう、昔誰かが言っていた、「不運が列をなしてやってくる」という風情ですね。欧州ツアーなんてそりゃもう悲惨すぎて笑える笑える。50過ぎたオッサンがやってることじゃないです。大体素人にブッキングやらせるかあ?ドラックは途中で捨てても匂いが残るんだよ!今更クリスタンガリュースもねえだろう?と突っ込み所も満載。
それでも、
そのマヌケさや不器用さに人間の愛しさがあるんですね。これはAnvilだけじゃなくて、世界中の「かつて夢を持った、全然凄くない大多数の人たち」みんなが、「かつての夢」を思い出すんじゃないか、で、何だか「もうちっと頑張ってみようか」と思えるんじゃないか、と思います。特に、私なんかロック・メタルという分野が物凄く大事なものだから、彼らのことは凄くわかる。バンドやっていたかつての少年は、それが見果てぬ夢だと分かってたとしても絶対どこかで武道館を夢見たはずです。ヘッドフォンで聞いたチンケな歪み音が、武道館の音に聞こえたはず。そんな元少年がこの映画を見て心に響かないわけはない、と断言します。
世の中「成功中毒」のような話が溢れているし、失敗者・敗残者にはとことん厳しい。年齢が若いほどスポットライトを浴び、年が進む程に疎まれ、忘れ去られる。私は、そんな「世界中の偉くない人たち」の一人として、この映画を見ていたと思います。
また、彼らが純粋な音楽ファンだというのが物凄く嬉しかった。フェスティバルで自分のヒーローを見つけると飛んで行って話したりするのは演出でも何でもないと思う。それほど好きなものを持ち続けられる人生は、「天晴れな人生」だと思いますね。
そういう人生を考えて、また偉くない私は満員電車に揺られるわけです。
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