録音技術は何処まで音楽の本質を高めるのか?:「Mother Focus」(Focus)
中国では寝不足でして、あんまりハードな曲を聴いていませんでした。何しろ日本代表戦もあったし、人は沸いて出てくるし、車は渋滞で空港まで時間が掛かった上に金が足りずに慌てて銀行で両替する始末。
で、そんなときは往年のロックがいい塩梅な訳で、こんなのを聴いていました。
オランダのバンド、Focusです。
Focusは1970年代に活躍したバンドで、一般的にはユーロプログレに分類される事が多いと思いますが、私の感覚ではフュージョンロックバンド。今でもメンバーが変わったものの活動は続いているようです。ヴォーカルはヴォーカルと言うより効果音的なもので、特にヨーデル声が入る「Hocus Pocus」(Gary Hoeyのカバーが有名、というかGary Hoeyが有名かあ?)は印象が強烈。この曲はかなりハードですねえ。
多分名盤と言われるのは「Moving Waves」だったり、やはり名曲「Sylvia」を始めとしたベスト盤的な「Live at the Rainbow」だったりするんだと思いますが、これはメロウサイドとしての名盤かなあ、と思います。全体には浮遊感のあるメロディーを重視したサウンドで、Keyが全体にを包み込んだ音。ロックバンド的なスリリングさは殆どない、といって良いでしょう。
ですが、GのJan Akkermanの泣きが半端じゃない。
全編レスポールのナチュラルトーンだと思いますが、ヴォリューム奏法も織り交ぜていくメロディーの煽情力が素晴らしい。太いレスポール(例えばGary Mooreとか)とはまた違った音ですが、何と言うかこれもレスポールの音。近いのはSnowy White辺りですかね。「Bird of paradise」とか。特に、「No Hang Ups」の泣きは強烈だなあ。
このアルバムを聴いていて、「今の人がこの録音を聴いたらどう思うのかなあ?」という思いに駆られました。例えば挙げた「No Hang Ups」にしても、左右のGは全然ずれてるし、綺麗にハモっているわけでもない。ドラムの音もそりゃあ今の基準からすればしょぼいし。
それでも、この音楽の力は通じるんじゃないか、と信じたい。
今は音からピッチからハモリから機械で何とでも出来るし、もしかするとこの「Mother Focus」のプレイなんかは「下手じゃねえの?」と思われる節もある。ですが、音楽の本質としてのプレイはこのアルバムにも入っていると思うんですよ。綺麗なメロディーを感情を込めて弾く、という基本と究極があるプレイというか。もうちょっと言えば、この音で弾ききる技量っていうのは実は物凄く高いわけで、事実他のJanのプレイ(「Hard Vanilla」とか)はもうジャズギタリストの力量ですしね。
今のロックは大好きですが、少しこういうシンプルな技量と音で聞かせるというところに立ち返ることは大事ではないかな、と思います。やはりいじり過ぎな嫌いはあるわけで、Jeff Beckが、「昔のレコーディングが懐かしい。パッと録音ライトが点いて、直ぐに弾かなきゃならないあの緊張感がね」というのは、当時の音楽を聴くと分かる気がする。何がメロディーの核にあるのか、リズムというのはどういうものなのか、ロックでのミストーンは更にスリリングになることもあることとか、自分が分かっているわけではないですが、常に立ち返っていたいと思います。
このアルバムからではありませんが、彼らの最高傑作のひとつである「Sylvia」です。うーん、アンプに直つなぎ、カッコいいなあ。
| 固定リンク
« またまた中国出張 | トップページ | 一般化の危険 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは〜。
ヤンさんって旧世代(というか第1世代というか)の中では、3大ギタリスト(って言っても今の若い人は知らんでしょうが…)に匹敵するテクニシャンだと思います。Sylviaはインストだけど歴史的な名曲ですよね。
バイオリン奏法はヤングギターで、ヤン・アッカーマンの得意な奏法だって読んで、高校の時のフォークのコピーバンドでよくやりましたよ。アコギ担当のボーカルのヤツが「どうやったらそんな音が出るの?」ってたまげてました…^^;
投稿: しまうま | 2010年6月27日 (日) 20時56分
しまうまさん、
ヤンのテクって、やはりジャズ方面から来ているんですかね?Paco de Luciaなんかともセッションやっているんですが、かなりの腕です。
というか、フォークのコピーでなぜバイオリン奏法?もしかしてさだまさし(あれは本当のバイオリンかww)?
投稿: ドイツ特派員 | 2010年6月27日 (日) 21時05分