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2011年8月11日 (木)

中国の高速鉄道~夢のあとさき~

自身の仕事の問題でもあり、今回の中国高速鉄道の事故については、痛ましいと共に今後がどうなるのか、社内でも色々と調査をしているところです。

で、この話題はブログでは華麗にスルー、なんて決め込んでいたらアメリカの彼方のYSさんから、「何か書いてよ」というとんでもないプレッシャーが。いや、いくらなんでも荷が重過ぎますって。とはいえ、自分の仕事にも関わるので判っていること、想像できることを書いてみましょう。出来るだけ数字や記事は既出のものを使いたいと思います。

(言い訳しますと、よくわからないところの方が多いので、エッセイとして読んでもらえればよいかと)

まずは、今回さすがに新規高速鉄道の認可が一時延期される、という事態になりました。記事はこちら。高速鉄道に対しては、かなり色々な部材を日本の会社も入れています。例えば、電機品(VVVFインバータ)は日立と三菱が一角を占めており、ブレーキやドア開閉ではナブテスコ、台車の住友金属、などなどあるわけで、今回の事故というのも相当な影響が出るのでは、と予想されますよね、普通。ところが、この高速鉄道で一つ余り話題に挙がらないことがあります。

鉄道ビジネスの中で高速鉄道の割合は非常に低い

私が会社で使うのはUNIFE(欧州鉄道産業組合)の資料なんですが、2020年の鉄道関連事業の世界合計予想が約20兆円で、そのうち高速鉄道は1.5-6兆円に過ぎない。実は一番大きなシェアは都市交通と言われる地下鉄に代表されるもの。ちなみにこの辺りの数字は日立製作所が公開している資料に大枠が書かれています(ただこの中には車両別がないのと、2020年の数字はない)。しかもこの1.5-6兆円というのは、車両だけではなくて、それに関わる運行設備や保守業務なども入っているわけで、実際にはそれほど大きな影響は日本企業にはないと思います。むしろ、都市交通へ重点が移ることが予想されるわけで、そちらは実は新幹線よりも中国外の企業が参入していることが多い。その上今問題になっている鉄道省の影響が少なく、自治体での運用部分が多いので、こちらが増えると日本企業、例えば東洋電機や三菱電機なんかの仕事は確実に増えます。また、こちらの信号などの運行システムも地域独自で導入する会社を決めることができるので、日本の信頼性はいいチャンスだと考えています。

で、さらにそれに付随してもう一つあまり話題になっていない中国高速鉄道の事情があります。

都市間高速鉄道の多くは貨物と客車の共用

今回信号の運用が間違っていたために起きた、と言われる事故なわけですが、以前書いた大動脈としての四縦四横高速鉄道計画とは別に進めている都市間高速鉄道(250km/h前後)は、客車と貨物の共用路線が半分以上です(その辺りはこの雑誌に詳しい)。そりゃ信号で動かしているところはあるわけで、今回の事故の原因になった運行の問題は起こる素地はあったわけです。で、これは今実際に市場で言われていることですが、実は高速鉄道を少し減らして、貨物の生産を上げようという計画があります。まだ内陸部の輸送を考えると貨物の需要は大きく、貨物を増やしていかなくてはならないんですが、高速鉄道分の一部を貨物車両の客車転用で賄おうとしています。そうすれば、もし客車が余っても貨物に転用できますから(逆はできない)。

もう一つ言えば、今年の三月に鉄道省トップの賄賂などの腐敗による辞任のころから、安全性などの観点から高速鉄道の見直しは始まっていたわけで、今回の事故に便乗したところも少なからずあるだろうと思います。その点では更に安全であったり、信頼であったりの方向に物事を進めざるを得ないと考えます。何故なら、中国はやはり高速鉄道の輸出というのを諦めていないと思いますので、そのためには今回の事故で問題になった安全性をどうしても改善せざるを得なくなろうと考えます。

日本企業にはチャンスだと思う

他人の不幸でチャンスというのもどうかと思いますが、やはり上記の安全性、という点では日本企業の評判はよい方向に作用すると考えます。それは別に高速鉄道だけではなく、都市交通や貨物運行でも同様でしょう。上記UNIFEの資料でも、車両以外の保安やサービスという部門の売り上げは大きいわけで、寧ろ日本のお家芸としての輸出をするべきだと思うんですね。例えばブラジルの高速鉄道でも、ほぼ韓国に決まっていたにも関わらず再度入札時期を延期したのは、韓国高速鉄道(KTXと言われます)のトラブルの多さに「そこだけに任せていいのか?」という不安が出てきたから、という話もあります。
但し、中国鉄道省には金が無いため、プロジェクトの見直しはこの点が問題になっているという指摘もあり、短期的には絶対に必要なプロジェクト以外は延期、ということは自然の流れかと思います(貨物は減っていない)。で、政府がその間にもう一度建て直しを図るんだろうと思いますが、そこでMade in Chinaで行けるのか、ということについてはやはり難しいんじゃないか、と。ある程度は外部からの保安運行システムを導入するのではないかと予想、それは日本のチャンスではないか、と思うわけです。相対的ですが、まだ日本の鉄道シェアは低いわけで、そのシェアを上げるためには、車両よりも差別化ができる部品であったり、保安であったりに行った方が良いんじゃないでしょうか。そこでまた技術を無用に流用されないような枠組み作りができるのか、が肝になるんでしょうけど。

我が思う流れは、
1.短期的(半年~一年程度)には鉄道事業は様子見になる
2.その間の安全性向上で日本企業はチャンスがある(客車・貨物路線の共用は続く、理由は金銭面)
3.あえて車両は中国でよしとし、安全に関わる部品・その周辺は日本が納入を増やす(ブラックボックス化できるかが鍵)
4.都市交通分野で拡大する部分は中国製以外が大きいため、日本製品のシェア拡大も可能
てなことなんですが、結局は中国政府というのがどう舵取りするか、ということが一番大きな要因でしょうね。

これは希望でもあるのですが、やはりもっと安全への配慮に軸足を置いた発展(これは鉄道だけではないですが)をして貰いたいな、というのが出張でも中国に行く人間としての素直な願いです。

実は色々言えないこともあるんですが、ま、途中経過としてはこんなもんですわ。

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コメント

ドイツ特派員さん、
早速リクエストにお応え頂きありがとうございました。

都市交通と高速鉄道の比率が興味深いですね。失敗しなかったアメリカの未来の様な感じですね。

日本のチャンスとありますが、もし、中国が日本のシステムを導入したら、上手く使えこなせない様な気がします。

日本のシステムは、精緻すぎて、人に頼る所が多い様な気がして中国人には上手く使いこなせないのではないかと思います。

多分ベストの組合わせは、ヨーロッパのシステムの上を日本の車両が走る感じでしょうか。

投稿: ysjournal | 2011年8月12日 (金) 07時42分

ysさん、いやあ疲れますよ。

飯の種みたいに言われている高速交通がその程度の比率なんですよね。それでも伸びては行くんでしょうが、やはり都市交通なり貨物なりの比率は高いままのようですね。

システムについては、ある種の「いい加減さ」「遊び」を持たせるのは日本の場合苦手かも知れません。どの程度中国が使いこなせるか。それは優劣ではなくて文化の違いが大きいのかも知れないですね。

暫くこの件は落ち着かない状態が続きそうです。

投稿: ドイツ特派員 | 2011年8月14日 (日) 20時10分

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